『オンリー・ゴッド』観てきました


Only God Forgives Official Trailer #3 (2013) - Ryan ...

傑作と言う他ないと思います。前作『ドライブ』も相当なものでしたが、間違いなくレフンの最高傑作になるでしょう。

物語は典型的なエディプス・コンプレックスである。主人公は兄を殺した刑事の首を持ってこい、と母に迫られる。兄との間には確執があり、そこに劣等感なども混じっていたと思われる。この兄弟、母との関係は祖形的なものなんだが、とにかく母親の魔性たるや。兄弟の性器の大きさに言及したり、主人公の腕の筋肉を指で優しく撫でたり、とあからさまな性的関係の提示もあった――最後主人公は母の遺体の腹に手を突っ込むというシーンがある。あとホテルの受付や主人公の恋人(のふりをしている女)に辛辣に接するあたり、女性嫌悪のきらいもあるかもしれない。

母が来てからは主人公の見る光景には絶えず母の姿がフラッシュバックするようになり、その審級的な立ち位置も見える、んだがそこには相対する刑事も姿も見える。

ムエタイジムの支配人、という職業がそのマッチョさが示しているように、常に主人公は強さを求められる。最後に切り落とされるのが両腕の「拳」であるのもそういうことだろう。母が死に、審級はいなくなったわけだ。そして刑事チャンに「去勢」される。

そのもう一つの審級ポジションのチャンは父性的な役割に近いところにいる。地位はよく分からないがとにかく地元の警察のトップにあるだろうことは見える(かなり好き勝手やっている)。その刑事チャンは悪人を裁いたあと、毎回カラオケを刑事全員の前で披露する(笑いどころ)。思わず笑ってしまうのはその最強ポジションである彼が繊細さ、つまり「父性」の枠から漏れ出るものを簡単に見せるからだ。死者への手向け、弔いのようにも見えるが、あれは彼自身の心中から漏れる声だ、と思う。

何より美術が全編凝っていた。舞台がタイということもありその土地柄を過剰に見せる意味合いもあっただろうが、とにかく構図で語る、という映像だった。そしてオルガンの音色、エンディングのチャンの歌声、と演出も言うことなしであった。