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嘘は誰かを陥れるためでなく、――『ゴーン・ガール』

※ネタバレあるで。

 

そりゃ彼女が凄まじい嘘をつくのは彼女がろくでもない女だからというのがあるにしても、あのベンアフレックに突き飛ばされ頭を打つシーン、あれが決定打になったのだろう。あれから彼女は恐怖するようになり銃さえ持つようになった。復讐が目的の多くを占める一方で、彼女は夫から逃げる必要があった。それは先述の暴力、そして田舎でのつまらない、そのうえ経済的に困窮している生活から「身を守る」ために。

しかし逃亡先で彼女の目的は頓挫する。魅力的ですらあるほどに開けっぴろげで正直な男女によって。金が欲しければ直接奪いに行き、テレビ上での彼女の嘘を看破するような女、そしてしつこく手紙を送り続け彼女が頼ってくるや否や別荘に閉じ込め監視し束縛するストーカー男。そんな実直さに嫌気が差しながら点けたテレビに映っていたのは。

自分を騙した妻に対し心の底から不貞を詫びる(ふりをする!)ベンアフレックだった。彼はイカれた妻によって殺人犯(しかも死刑の可能性すらある)に仕立て上げられ気が気じゃないのだが、それを避けるにはとにかくテレビに出ろと敏腕弁護士は言う。情に訴えれば世論は動き、判決は変わる。裁判って、法って何かね、と思うが、ここらへんでこの世界は全て嘘に塗り固められてるんだと確認できるのだ。そしてあのテレビ番組のMCの女も嘘くさい嘘くさい。ということで、彼は自分を騙した女と同じ土俵に上がる。母の絵本と常に比較され衆目に曝されてきた彼女が殺された哀れな妻を演じたように。しかし複雑なのはここには自分の不貞を打ち明ける、という正直さがあることだ。ある部分で自分の内面を曝しながら、騙された恨みを忘れて、妻に戻ってきてほしい夫を演じる……。

妻は夫の姿に感銘を受ける。反省してくれたのね!ということだろうか。それも多少あるにしても、正確には違う。認めたのだ。自分を騙したにも関わらずテレビの生中継で演じる夫を。そして彼女はストーカー男に対して劇中で最もスキャンダラスな行為に打って出る。自分を本当に救うのは実直さではなくやはり嘘なのである。しかも一人で折り重ねていくのではなく、二人で編み込むように。本当にイカれている。

血まみれで彼女は帰り、夫と抱き合う。夫はおいふざけんな、と思うが彼女の腹には真実の赤子か宿っていた。これは二人が適当なセックスをしたときに出来た子かもしれず、二人に愛は通ってなかったにしても子は愛の結晶として生まれる。夫はここでなんと妻と子を育てていく決心を固めてしまう。「責任がある」と。しかし彼はここで妻と子を捨てることが何を意味するか勿論分かっているし、妻はそれを使って脅しもする。家を取り囲む嘘に目敏い奴らから身を守るには、二人で演じなければならないのである。二人は子供ができたことで嘘の規模を「家族」にまで拡大させる必要がある。だがそうしなければならない。

嘘は自衛の手段になる。夫は子を育てる、と生中継で宣言する。

 っていう感想。今年初め公開の『アメリカン・ハッスル』と比較してみるのも一興かもしれない。