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唯一信じられるもの――HOMELANDシーズン3

ボルヘ・ルイス・ボルヘスの「贈賄」という短編がある。北米の大学の博士と教授がキャリアを巡って心理戦を繰り広げる、この作家にしては珍しい題材なのだが、この作品についてあとがきでこう触れている。「北米人の偏執狂的倫理観には、いつも瞠目してきた」と。

いや、あんまり関係ないんだが、とにかくHOMELANDはシーズン3でも騙し合う騙し合う。前のシーズンであれだけのクライマックスを描いて、もうさすがに盛り上がらんやろ、と思ってたらそんなことはなかったぜ。

何より描かれるのはキャリーの上司、ソールの冷徹さ、である。テロ犯とされたブロディと繋がりのあるキャリーを問答無用に精神病棟送り。ぶちぎれたキャリーにイランのジャバディが接触したとみるや、ソールは奴を捕まえるために潜り込め、と命令。「よくやった」と抱擁。次第に、キャリーの病棟送りは初めからこのためだったと分かる。それによって、ただでさえ双極性障害の彼女がどれだけ苦しんだか。

それだけでなく、ソールは逃亡していたブロディを連れ戻し、アメリカを襲った英雄としてイラン革命防衛隊の司令官、アクバリと接触し暗殺せよと命じる。彼はバグダッドで8年間も捕虜となり、祖国を裏切ることを叩きこまれ、しかしそのなかでムスリムとして目覚め、アメリカの家族との関係に悩み、テロの決行をようやく踏み止まったにも関わらず、うまいこと別のテロ犯に仕立て上げられた、常人では考えられない境遇なのである。その彼を、またも。

勿論彼は挫折しそうになる。できない、と弱音を吐く。ただ彼は最後やり遂げる。正直何が彼をそうさせたのかは分からない。彼の表情はいつも揺れている。アメリカとイスラム圏の戦争を一人で背負い込まされたかのような彼の心情が誰に推し量れるのか。

ただ一つ、今回のシーズンで最も重大な出来事としてキャリーの妊娠がある。ブロディとの子である。そもそもこれまでの話でキャリーが、スパイの疑いがあったブロディに惚れてしまうということに並々ならぬ事情があったわけだが、妊娠という既成事実はブロディに何らかの感慨をもたらしただろうか。

ソールは革命防衛隊のジャバディを逮捕せず、スパイとしてイランに送り返し、ブロディという餌でアクバリを叩こうとする。それは次の長官に決定しているロックハートからすればあまりに無茶で、ブロディを処刑して面目を躍如したいという方針と相対する。だがソールは彼、ひいては自分たちのチーム以外のCIA自体をも一時的に騙す。この徹底ぶり、冷徹ぶり。徹底的に疑い、騙す、嘘が嘘を呼ぶ戦争において、キャリーはブロディへの愛を信条として動く。ぎりぎりの状態の彼女を繋ぎとめていたのはその一点だったと言っていい。だから彼を助けるための行動には全く躊躇がない。

ソールは最後ジャバディの影響力のため、暗殺を成し遂げたブロディを防衛隊に引き渡すかの選択を迫られる。アメリカを救った功労者をである。それはまた、何度目になるであろう、キャリーを裏切ることである。彼は作戦の合間に妻に浮気され、自分もまた騙されていたのだと悟る。結果的に浮気相手には制裁を加えることになるが、彼は妻を許し、自分の考えも改めた。そのことによってなのか、彼はキャリーを信じ、二人の脱出に賭けた。

だがロックハートの密告によってブロディは捕えられ、キャリーの目の前で公開処刑に遭う。痛ましいというほかない結末だった。何故ここまで彼は翻弄されなければならなかったのか。アメリカにもイランにも反逆者、国を売った者として刻まれる男。全ての嘘を引き受けた男。

キャリーもソールもその後仕事に戻るのだが、何故こうも彼らは強靭/狂人なのか。シーズン4はすでに放送されているようだが、彼女を突き動かすものは何になるのか、子供はどうなるのか、注目したい。