「古き良きアメリカ」――『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』

アクションは言うことなしであった。なんか『フレンチ・コネクション』も意識されていたらしいが、確かにカーチェイスのシーンはそう言われてみると、という感じであった。他にもキャプテンが全力で走ってドアや窓を破る迫力や盾を使った戦闘での効果音など、最後の大規模なCGに潜みがちだがいろいろ緻密に撮られていました。昨今のいい感じのアクション映画の粋を集めた、という感じでした。

とにかく楽しい映画だったのだが、一方で政治ドラマ的な構造である以上、また「キャプテン・アメリカ」なんていうタイトルである以上目を向けなければならない部分がやはりある。

そもそも第二次大戦時の愛国スピリット溢れる純朴な青年が長い眠りを経て現代に目覚め、国の危機に立ち向かうというところに、今のアメリカのなんかしらのヤバさがある。しかもキャプテンは随所で「昔とは違う」「シールズ(組織)は変わった」など当時の国を懐かしむ様子を見せる。要は今のアメリカ(WW2以後)はやばいから、古き良き時代のアイコンに救ってもらおう、ということか、と読めなくもない。勿論あのロバート・レッドフォードを国防を担う役にみせかけてあの役(詳しくは書かない)、としたことから見てもかなりWW2以後に対する強い意識があるのは明らかである。

そういう危うさを持った警戒すべき作品であるのだが、忘れてはならないのはその国を担うアイコン、キャプテン・アメリカの超人的な肉体が当時のアメリカの人体実験によって作られた、紛い物であるということである。そしてそのマッチョさにも関わらず彼が童貞であるということも忘れてはならない。普通アメリカ的なマッチョはヤリ○ンそのものだが、それに対するアンチテーゼもある。前作共にその肉体でアメリカを救うスペクタクルであったが、そのアイコン=肉体の場当たり性というか急造性が露わになるに違いない、というかならなくてはならない(原作は読んでいない…)。

それに加えもう一つ忘れてはならないのは、しかし主演のクリス・エヴァンスのムキムキの肉体美は紛れもなく本物であるということである。実にごつい。

いろいろ言ってきたが、敵の狙いが監視国家を作らせて「自由」を勝手に差し出させる、ことだという話の筋には少し感心した。

『オンリー・ゴッド』観てきました


Only God Forgives Official Trailer #3 (2013) - Ryan ...

傑作と言う他ないと思います。前作『ドライブ』も相当なものでしたが、間違いなくレフンの最高傑作になるでしょう。

物語は典型的なエディプス・コンプレックスである。主人公は兄を殺した刑事の首を持ってこい、と母に迫られる。兄との間には確執があり、そこに劣等感なども混じっていたと思われる。この兄弟、母との関係は祖形的なものなんだが、とにかく母親の魔性たるや。兄弟の性器の大きさに言及したり、主人公の腕の筋肉を指で優しく撫でたり、とあからさまな性的関係の提示もあった――最後主人公は母の遺体の腹に手を突っ込むというシーンがある。あとホテルの受付や主人公の恋人(のふりをしている女)に辛辣に接するあたり、女性嫌悪のきらいもあるかもしれない。

母が来てからは主人公の見る光景には絶えず母の姿がフラッシュバックするようになり、その審級的な立ち位置も見える、んだがそこには相対する刑事も姿も見える。

ムエタイジムの支配人、という職業がそのマッチョさが示しているように、常に主人公は強さを求められる。最後に切り落とされるのが両腕の「拳」であるのもそういうことだろう。母が死に、審級はいなくなったわけだ。そして刑事チャンに「去勢」される。

そのもう一つの審級ポジションのチャンは父性的な役割に近いところにいる。地位はよく分からないがとにかく地元の警察のトップにあるだろうことは見える(かなり好き勝手やっている)。その刑事チャンは悪人を裁いたあと、毎回カラオケを刑事全員の前で披露する(笑いどころ)。思わず笑ってしまうのはその最強ポジションである彼が繊細さ、つまり「父性」の枠から漏れ出るものを簡単に見せるからだ。死者への手向け、弔いのようにも見えるが、あれは彼自身の心中から漏れる声だ、と思う。

何より美術が全編凝っていた。舞台がタイということもありその土地柄を過剰に見せる意味合いもあっただろうが、とにかく構図で語る、という映像だった。そしてオルガンの音色、エンディングのチャンの歌声、と演出も言うことなしであった。

『スティーラーズ』観てきました

タランティーノ褒めるわ、蓮實が時評で取り上げるわ、ということで観てきました。

一見繋がりのない群像劇が所々で絡まり、しかもその展開は異様に滑稽でスラップスティックだということで否応なく『パルプ・フィクション』が思い浮かぶが、さてそんな単純なフォロワーなのか、っていうと恐らくそうではない。

3つのエピソードに漂っているのは救済やら、自由、という感じのもの。

仲間に車で轢かれたヤク中のもとには怪しげな保安官が現われ、「救済だ」と散弾銃をいきなり渡され、その銃でボス諸共木端微塵。

妻の復讐に走るマッチョは性欲異常者から女性たちを救い出し「君たちは自由だ」と叫ぶが、ひどいことに見事に全員その異常者に洗脳されてしまっていて、妻にも運転中にナイフで刺される始末で、その衝撃で事故死。

プレスリーのものまね男は町のそこらじゅうで馬鹿にされ、呼ばれた祭りのステージでも散々。そこで祭りの前に会った怪しい宣教師が客席にいるのが見えて、救いに縋ったところ突然全てが上手くいく。その場面でマッチョに解放された裸の女性たちが、おっさんに星条旗を被せられ、ものまね男の唄う「アメイジング・グレイス」の前に一列に並ぶシーンの可笑しさったらない。そこで明確に、「あ、やっぱそういう映画なんだな」と確信する。しかもその後ろで「救済」されたヤク中の銃撃戦と、大爆発である。

そしてその物語を動かしたのはひとつの指輪と質屋、である。

アメリカと経済とキリスト教、といえばそれっぽいがとにかくアホらしい映画だった。ポール・ウォーカーよ安らかに。

「キャプテン・フィリップス」観たぞえ

起きて二十分で家出てその三十分後に席座って観たんだけど、そういうタイミングで観るべき映画じゃなかった。

「ボーン」シリーズからだけどこの監督はことごとく緊張しかない映像を作る。今作はそれがかなり顕著で、船長は冒頭から常にピリピリ。ジョークの一つすら許されない雰囲気。

二度の海賊襲撃のシーンは本当に息をつく暇がない緊迫感で、梯子がかかったシーンでは思わずため息が漏れた。というかそのあと船を占拠されても息をつく場面は終わりが来るまでなかった。常に冷静に、気性の荒いソマリアの若者と交渉し、裏をかこうとする船長と臨機応変に逆転の機会を狙うクルーたち。向こうの船長を人質にとって形勢は互角と思われたが、フィリップスも救命艇に連れて行かれ、今度は密室空間。

そこからは米海軍とソマリアの若者たちの交渉劇になるんだが海軍の手際はさすがに見事で、じりじりと彼らは追い詰められていく。彼らの母船はすでに逃亡し、成す術はすでになかったのだと言える。貨物船を占拠出来なかった時点で勝負は決まっていた。

海賊たちもどこかでそれは分かっていたはずだ。たった三万ドルと船長の人質が土産ではどうしようもない。だがどうしても彼らは身代金に縋るしかなかった。金が必要だった。

勿論これは怖いソマリア海賊に襲われたけど助かってよかったね、という単純な話ではない。襲われた貨物船に載っていたのは彼らへの支援物資であり、それを彼らに伝えると「お恵みか」と言う。ソマリアの部族たちまでその物資が届いていたとは思えない。しかも「俺たちの海で魚獲りやがって」とも言う。金を奪うときも「俺たちの海の通行税だ」という。

彼らが漁師から海賊になった経緯には一番には金の問題があるだろうが、こうしたアメリカへの憎悪も少なからずあるだろう。そうした背景も見逃すわけにはいかない。だがその悲願である金の問題にしても、彼らは以前ギリシアの船を奪って大儲けとしたというのだが、それが手元に訪れたかというとそうではない。彼らは雇われている身であってボスがその金をかすめたということである。だがそれでも状況を少しでも変えるためには海賊をやるしかない。初めボスが参加者を募る場面でも、応募は殺到していた。

最後フィリップスが「もう限界だ」と泣き叫びその冷静さを失ったのも、そういった背景にあるなにかを想像して、果たしてこの事件に終わりはあるのかと思ったかもしれない。

そして最後海賊の若き「船長」は捕えられ、船員は狙撃され、フィリップス船長はその返り血を大量に浴び、手を縛られ目隠しをされた状態で保護される。

海軍の医務室で彼は「その血はあなたの?」と聞かれる。その彼の苦痛とソマリアの若者たちの苦痛が混じったかのような。

アイドル楽曲大賞2013

メジャーアイドル楽曲部門だけ投票したったので、一応メモとして。

1位.AKB48恋するフォーチュンクッキー

2位.BABYMETAL:おねだり大作戦

3位.私立恵比寿中学:禁断のカルマ

4位.BiS:BiSimulation

5位.Dream5:COME ON!

1位はもうこれ以外ない。2位はリンプビズキット的トラックにローティーンのボーカルという組み合わせの勝利。3位以下は順番もそんな深い理由はなく、何ならあと気になる曲がいくつかあって。

dancing dolls:Ring Dongとか、でんぱ組.inc:でんでんぱっしょんとか、9nine:Evolution No.9とか、PASSPO☆:Trulyとか、ももいろクローバーZ:宙飛ぶ! お座敷列車とかNMB48カモネギックスとか。

ももクロはもうそんなに冒険しなくていいんじゃないか、とアルバム聞いて思った。

あとBiSは変に目立とうとするのは別にいいんだけど……まあね……

「悪の法則」

観てきました。のでメモがてら大ざっぱに。

マッカーシー原作といえばコーエン兄弟監督の「ノーカントリー」で、あれも傑作でした。「も」って書いたけど、この「悪の法則」もなかなかのもんだった。

作中では麻薬カルテル最強で、とにかく命狙われたら逃げるしかない。舞台はメキシコとの国境だけどあの辺の麻薬ビジネスは実際にもとてつもない状態であるというのはよく聞く。

最後主人公のカウンセラー(固有名詞なし、常にその名で呼ばれる)のもとに届く妻の虐殺DVD、そしてわけもなく取引のトラックに積まれた腐った死体、などその狂気から奴らの恐ろしさは身にしみてわかる。

そういう「あ、こいつに狙われたら終わりだな」って奴に屈服する、っていう筋は「ノーカントリー」もそうで、あの不気味な出で立ちの屠殺用のガス銃持った奴が延々追いかけ来る話だった。マッカーシーはそういう圧倒的暴力への成す術のなさ、みたいな話好きなんですかね。ちゃんと読もうと思います。

でそういう世界の清涼剤的なものとして、キャメロン・ディアスおばさんが出てくる。超美人。彼女が標的を部下に殺させるとき、わざわざ砂漠にワイヤー仕掛けてバイカーが通るまで待ち、通るときライトアップして「あ!」と思った時にはすでに遅し、首スパン!という殺し方と、会社から出たブラピを、ランナー装って真正面から首に巻きついて自動で締まるワイヤーをかけて、頸動脈スパン!もう一人のランナーが鞄をひったくる、という非常にスマートで合理的な殺し方をする(屈指の場面)。

彼女は欲に従順で(性欲含む)、スポーツのようにブツを盗み、金を得るというスタンスだけども麻薬カルテルからしたら「悪いけどこれ戦争なのよね」ということである。

美しい肢体の(そしてなんかかわいい)チーターが、途中で消えてしまうのもその暗示なんだろう。カウンセラー=弁護士は自分の無罪を「弁護」できず、なすすべなく戦争に巻き込まれる。

クスリ、ダメ、ゼッタイ。

HOMELANDシーズン2観了

圧巻。と言う他ない。単純にあれほどクライマックスに向けて緊張感をじわじわと上げていき最後にまさに「爆発」させるその手際はもう見事という他ない。ドラマという媒体のエンターテインメントを熟知している、という感じだった。

そして役者もみな素晴らしい。キャリー役は特に感情を乱したときの目の演技がよかった。茶髪のカツラを被ったとき見た目が本当に地味になったのが驚いた。ブロディ役は英雄とテロリストを行き来する役だったが、風貌からすでにその宙吊り感というか捉え難さが充溢していてこの上ないはまり役だった。ソールのキャリーを包む優しげな表情、デイナの思春期らしい不満たらしい顔wなど挙げればキリがない。

第1シーズンでキャリーはブロディをテロリストだと疑いながら惹かれてもいた。その関係が観ててちょっと謎だったんだが、シーズン2になってアブ・ナジールとの三角関係だと捉えると結構しっくりくる(勿論取り合うのはブロディ)。その証拠にキャリーが捕まったときのナジールの、ブロディとの間には愛さえ芽生えていた(この発言は怪しいもんでただ駒としてしか見てないだろ、とも言えるが一応言質w)という発言。そしてブロディも英雄とテロリストの間で揺れる自分を知ってて受け止めてくれるのはキャリーしかいないからそっちにつく、と。んでナジールは排除されたので、心おきなく二人でいれるね、となったところで最後のあのテロ。

ブロディの家族は帰還してから非常にアメリカ的ファミリーとしてメディアに乗せられ、彼は副大統領候補にまでなったんだが、そこまでいくにはとことん嘘をつかねばならないようで、デイナとフィンが起こしたあの事件。結局ブロディが嘘に耐えられず家庭は壊れてしまうんだが、その家族の描写はどこも濃かった。あと奥さんの気持ちはよく分かるんだが子供の叱り方が結構マズいときがあってそこはやきもき。

無人機での爆撃を指示した副大統領とデイビットだったり、フィンのひき逃げをもみ消した副大統領の妻が結果的に最後逝ってしまうのは妙に因果応報的なあれがあったのが少し引っ掛かるけど本当に素晴らしいドラマだった。シーズン3、もしかしたらもっとこの先続いていくかもしれないが、その緊張感がいつまでも続くよう。

クインとガルベス君がお気に入りです。